有限会社 山﨑マーク
代表取締役
山﨑 秀平さん
SHUHEI YAMASAKI
全国へ、刺繍とマークをつくり続けて45年。
培われたスキルと引き継いだバトンを、
これからは地域へ向けて。
長崎県・西海市にある創業45年の「山﨑マーク」。母体の刺繍・マーク加工業から、地域交流拠点の運営まで幅広い事業を手がけています。「自分が中心で動くのでなく、人が自然とつながって盛り上がっていければ」と話す山﨑さんのお話には、“サポーター美学”が見え隠れしていました。
穏やかさとダイナミックさ
それが、わたしのルーツ。
穏やかな内海とダイナミックな外海を抱える長崎県・西海市で、刺繍・マーク加工業の長男として育ちました。高校・大学とデザインを学び、広告代理店への就職を考えていた頃、父親から「町議(当時:西彼杵郡西海町)に出馬するので、家業を手伝いに戻ってきてくれないか」と頼まれました。地元にいずれ戻るだろうと頭にはありましたが、想定より早いタイミングになりました。大学を卒業した2001年、山﨑マークに入社し、初めはデザインオペレーターの仕事を任せられました。当時社内にはパソコンを使える人が父と私しかおらず、また時代とともにクライアントのニーズが細分化していく中で、パソコンやデザインのスキルを生かせたと思います。10年ほど経った頃から次第に承継の話が出はじめました。山﨑マークの事業をベースに違った魅せ方ができないか、自分のカラーを出せないかと考える時期でしたね。2014年には、山﨑マークのロゴ・キャッチコピー・HPを制作。2016年、佐世保の万津町にコンセプトショップ「manto」をオープンしました。そして、2017年に代替わりをし、社長に就任。2020年には山﨑マーク本社前に、カフェを備える地域交流拠点「HOGET」をオープンし、現在に至ります。手掛けている事業には様々な側面がありますが、根底にあるのは、自分がひとつのパーツとしてユニークなクリエイターとコンテンツのサポートをしたいという思いです。
山﨑マークの歴史・約50年を物語る無数の「版」を背景に。
スポーツのサポーター
そして、クリエイターのサポーターへ
元々みかん農家だった父が、地元のスポーツ店でマーク加工の手伝いをしたことが、創業のきっかけでした。現在もスポーツ関連の注文は会社の柱です。スポーツに支えられ、ここまで成長することができました。会社としてスポーツに還元したい気持ちは強く、地域のスポーツ大会に協賛したり、地元のJリーグの試合で職業体験ブースを出したり、とスポーツ振興の機会は逃さないようにしています。くわえて、クリエイターの支援も山﨑マークが大切にしている点です。ちょうど私が入社した頃から、アーティストとして活躍する高校時代の友人の依頼を受け、継続的にグッズ制作を手がけるようになりました。山﨑マークの刺繍やプリント、マーク加工の技術がクリエイターの役に立つのを目の当たりにし、嬉しかったですね。家業のユニークさと、クリエイターのサポートに回る自分自身の適性を感じました。このふたつの気づきは、承継を前に大きなアイデンティティになりました。2014年、地元のデザイン事務所に協力してもらい、山﨑マークのロゴ・キャッチコピー・HPを制作しました。できたキャッチコピーは「ほしいものは、つくる。」。山﨑マークの強みがストレートに伝わるコピーになりました。ロゴには、ピンクのカラーと優しい糸の雰囲気で親しみやすさを込めて制作してもらいました。創業から45年を迎え、今後は山﨑マークのアイコンとなる自社製品の企画・製造を進めていきたいと考えています。
V・ファーレン長崎主催「ワクワク! こどもお仕事体験!」の様子。普段、工場で働く従業員にとって直接お客さまと交流できる場は、貴重な機会になっているそう(写真:山﨑マーク提供)
双方向のコラボレーションで
生まれるモノづくり、町づくり
mantoは、2016年にオープンした山﨑マークのコンセプトショップです。承継前のタイミングでチャレンジをしたかったんです。場所やコンセプトなどは、わたしが率先して考えました。manto周辺は、現在では「万津6区(よろづろっく)」として、個性的なお店とそこに集う人で活気あるエリアになっていますが、出店当時はまだそうでもなかったんです。でも、なぜかここならおもしろくなりそうな気配がして。半年ほど空き物件を待ち、店をオープン。同時期にオープンした他店舗のオーナー方とワイワイ言いながらイベントを企画し、行政主導ではない街づくり活動に参加したのはとても良い経験でした。これが、後のHOGETに繋がるものにもなりました。mantoのコンセプトは「making together 一緒につくろう」。山﨑マークの主軸であるスポーツ色はあえて出さず、ハンドメイドの作家さんやクリエイターの方、小さなショップのグッズ製作を支援する駆け込み寺の機能を持たせました。店内にはシルクスクリーン体験ができるワークスペースがあります。今後は刺繍をその場で縫えるサービスができないか考えているところです。お客様と双方向のコラボレーションでモノが生まれる空間になってほしいですね。
マークや刺繍を気軽に楽しんでもらうために作られた山﨑マークのコンセプトショップ「manto」。
西海の人やコンテンツが
うもれていってしまう危機感
山﨑マーク本社前の古民家を取得したのは、2018年。当初は活用目的もはっきり定まっていなかったんです。一度は、西海市出身の書家の方にアトリエとして貸し出していました。これも、いま思えばクリエイター支援の思いからでしたね。並行して、当時地域おこし協力隊だった編集者の方と一緒に、西海市のおじいちゃんおばあちゃんをおもしろおかしく伝える活動(おんじやんおんばやん)に携わっていました。西海市にあるユニークな人やコンテンツに改めて気づき、まだそれらに日の目が当たっていないことに歯がゆさを感じるようになりました。万津6区しかり、民間主体の町おこしが成功し活気あふれる他エリアと比較し、我が街・西海も何かやらないとと内から沸きおこるものがありましたね。しばらく悶々と考え、遂に、地域の拠点を作るため古民家活用プロジェクトが動きはじめます。立ち上げには、ソフト面(コミュニティ)とハード面(建築)のそれぞれに精通した外部メンバーを招致しました。用途も定まらないスタート段階から一年ほどじっくり話し合い、最終的にショップとカフェを備えた現在の形にまとまりました。こだわりは、クリエイティブだけど、間口を広くすること。地域のおじいちゃんおばあちゃんも若い人たちも気軽に来れる場所がプロジェクトチーム全体の理想でした。この大階段は、その理想をうまく具現化できたと思います。
①HOGETが地域交流拠点なら、床屋は情報が集まる拠点。ご近所の方が多く通うため、自然とこのエリアの情報が床屋に集まる。
②2023年7月に開催されたこどもマルシェの様子。HOGETは、地域の交流拠点として、さまざまなイベントが開催される。
③HOGETを訪れる人の憩いの場となっている綺麗な芝生は、「芝生の番人」と呼ばれる社長のお父様(現会長)によって管理されている。
内海と外海がまじわる場所で
渦潮がおこるように
紆余曲折を経て、2020年「HOGET」がオープン。あれから3年近く経ちます。HOGETの由来は、西海市にあるホゲット石鍋制作遺跡から。西海の知られていない魅力にスポットを当てたいという思いを込めました。HOGETで西海の情報を手に入れ、ここを起点に市内各所に足を伸ばす方も増えました。西海の玄関口としての機能をHOGETが果たせるようになり、やっと西海が認知されるきっかけができた気がしています。気をつけるべきは、地域を好き勝手に編集しないこと。私ができるのは元々西海市にあるコンテンツをあとほんの少し前に押しだすことだけです。決して独りよがりにならないように意識しています。今後は、町おこしに成功している他の地域同様、外からの多様な人を柔軟に受け入れ、関係人口を増やしていければ、と。ポテンシャルを備えた人/モノが出会う媒介として、私やHOGETが機能するならとても嬉しいです。西海に関わるプレイヤーのサポートはしっかりするので、あとは私の知らないところで自然と物事が動きだしてほしいですね。西海の渦潮のように。
- 2023年7月取材・撮影
- 企画・デザイン: Nの広報さん編集部
- 取材・文: カマサキココロ〈 STUDIO346 〉
- Photo: JUN KAMASAKI 〈 STUDIO346 〉
事業一覧/有限会社 山﨑マーク
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山﨑マーク
刺繍・プリント・転写の技術を使用し、スポーツチームのオリジナルユニフォームから、クリエイターのグッズ製作、個人のおもいでの品まで幅広く製作する。社訓の五つ目は「社会に貢献する会社をつくる」。
公式サイト -
manto
プロ仕様の技術を、一般の方も気軽に。ショップ内には、シルクスクリーン体験のできるワークスペースに、オリジナルグッズとサンプル展示が所狭しと。「なんでも作れる」不思議な空間に、ワクワクが止まらない!
公式サイト -
HOGET
DIYスペースとカフェ、ショップを備えた地域交流拠点。大階段が印象的な建物は、国内外の建築メディアに掲載される。カフェから続くこだわりの芝生は、裸足で歩いてもチクチクしない柔らかい品種。
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